2007年 01月 26日
自由を奪われた者たちの葛藤 ドイツ映画 The Lives of Others |
アカデミーの外国語映画賞にもノミネートされているドイツ映画The Lives of Others(原題:Das Leben der Anderen、邦題「善き人のためのソナタ」)を見た。
舞台は、社会主義体制が崩壊する数年前の1984年の東ベルリン。反体制主義者たちを見つけ出すことが目的の秘密警察で働く男は、上司から、著名な劇作家とガールフレンドの行動を監視するように言われ、ふたりのアパートに盗聴マイクを取り付ける。男は、はじめは、何の疑いも持たずに職務を忠実にこなす冷血漢だったのだが、劇作家の芝居を見て思いがけず感動する。また、息苦しい体制の中で、文字通り命をかけて表現の自由と戦うアーティストたちの姿を知って、密かに良心に目覚めてゆく……。
説得力あるストーリーとキャラクター、美しい音楽(特に、“Sonata for a Good Man”というピアノ曲の美しいこと!)、カタルシスの大きさと、どの点においても、非の打ち所のないすばらしい作品である。歴史的事実に基づいているそうだが、ハリウッド映画にありがちな「正義の押し売り」がまったくない。絶望状態における人間の尊厳が、センチメンタリズムに陥ることなく描かれている。それでいて、こむずかしくもなく、チープでもない。交響曲の傑作を聞いているように、無意識にその世界に連れ込まれ、大きな感動がわいてくる。芝居や音楽、文学が人を変えるという、あたりまえで、普遍的なメッセージが上手に盛り込まれている。エンディングも気がきいている。良くも悪くも、几帳面なドイツ人気質もユーモラスに出ている。本国ドイツでは各映画賞を総なめにしたそうだが、それも納得できる。
圧倒された。久しぶりに、ヨーロッパ文化の奥行きの深さ、アメリカ映画の雑さやいい加減さを痛感させられた。監督は、1973年にケルンに生まれ、少年時代に東ベルリンを両親とともに何度も訪れたことがあるそうで、この作品のリサーチに4年をかけたとのこと。東ドイツの国民1700万人に対し、一時期「密告者」は20万人もいたということで、おそろしいことに100人にひとりは密告者だったという計算になる。実際、秘密警察の盗聴員を演じている俳優の妻も、彼の行動を密告していたことが、ベルリンの壁崩落後にわかったらしい。秘密警察が集めた個人情報は今、本人ならが閲覧できるようになっているということだ。いかにもドイツらしい。
それにしても、こういう映画を見ると、表現や行動の自由が保障されている状態にあっても、人が、それに値するまともな選択をしないのはどうしてなのだろうと思わずにはいられない。
舞台は、社会主義体制が崩壊する数年前の1984年の東ベルリン。反体制主義者たちを見つけ出すことが目的の秘密警察で働く男は、上司から、著名な劇作家とガールフレンドの行動を監視するように言われ、ふたりのアパートに盗聴マイクを取り付ける。男は、はじめは、何の疑いも持たずに職務を忠実にこなす冷血漢だったのだが、劇作家の芝居を見て思いがけず感動する。また、息苦しい体制の中で、文字通り命をかけて表現の自由と戦うアーティストたちの姿を知って、密かに良心に目覚めてゆく……。
説得力あるストーリーとキャラクター、美しい音楽(特に、“Sonata for a Good Man”というピアノ曲の美しいこと!)、カタルシスの大きさと、どの点においても、非の打ち所のないすばらしい作品である。歴史的事実に基づいているそうだが、ハリウッド映画にありがちな「正義の押し売り」がまったくない。絶望状態における人間の尊厳が、センチメンタリズムに陥ることなく描かれている。それでいて、こむずかしくもなく、チープでもない。交響曲の傑作を聞いているように、無意識にその世界に連れ込まれ、大きな感動がわいてくる。芝居や音楽、文学が人を変えるという、あたりまえで、普遍的なメッセージが上手に盛り込まれている。エンディングも気がきいている。良くも悪くも、几帳面なドイツ人気質もユーモラスに出ている。本国ドイツでは各映画賞を総なめにしたそうだが、それも納得できる。
圧倒された。久しぶりに、ヨーロッパ文化の奥行きの深さ、アメリカ映画の雑さやいい加減さを痛感させられた。監督は、1973年にケルンに生まれ、少年時代に東ベルリンを両親とともに何度も訪れたことがあるそうで、この作品のリサーチに4年をかけたとのこと。東ドイツの国民1700万人に対し、一時期「密告者」は20万人もいたということで、おそろしいことに100人にひとりは密告者だったという計算になる。実際、秘密警察の盗聴員を演じている俳優の妻も、彼の行動を密告していたことが、ベルリンの壁崩落後にわかったらしい。秘密警察が集めた個人情報は今、本人ならが閲覧できるようになっているということだ。いかにもドイツらしい。
それにしても、こういう映画を見ると、表現や行動の自由が保障されている状態にあっても、人が、それに値するまともな選択をしないのはどうしてなのだろうと思わずにはいられない。
by nyfilmetc
| 2007-01-26 12:04
| 映画