救世主は赤ちゃん Children of Men (「トゥモロー・ワールド」) |

監督は「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」というよりも、「天国の口、終りの楽園」(原題は、とても意味深なY Tu Mama Tambien)のアルフォンソ・キュアロンというので、期待して見たが、ダニー・ボイル監督の”28 Days Later”などと変わり映えがしないうえに、ひたすら暗く、ひたすら暴力的。
舞台は2027年。人類はなぜか子どもが生まれなくなり、最後の子どもが生まれてから18年たっていた。主人公(クライブ・オーウェン)は、奇跡的に妊娠している黒人女性を内戦が続くイギリスから逃がそうと懸命になるのだが……。
設定となっている社会は無政府状態で、爆発や銃撃は日常茶飯事。雰囲気は超暗い。9.11後の世界の状況を反映してか、最近の映画はずいぶん末世的。狂った人々がバチバチやるのをうんざりして見ながら、「資源も少なくなっているはずなのに、銃と弾薬は無制限にあるようなのはなぜ?」と思ってしまった。
ところで、切れた男たちが、全員、赤ちゃんを見ておとなしくなるシーンが暗示するのは、「救世主とは、結局、未来を作れる新しい生命」ってこと?
出演者の中では、出番こそ短いものの、何の気負いもなく自分を犠牲にする元ヒッピーの老人役のマイケル・ケインが印象に残った。それから、使われていた音楽の選曲は、キング・クリムゾン(!)からジョン・レノンまでで、なつかしかった。監督の趣味なのだろう、きっと。
この作品とはまったく関係ないが、近年、本編が始まる前に、映画館で予告編だけでなく、いろいろなCMや広告が流される。テレビならスイッチを変えるとか、ほかのことをするとかできるが、映画館では目を閉じ、耳を塞がない限り、CMや広告を見ざるを得ない限りで、まったく腹がたつ。しかも、だいたいは、イメージが汚い、お手軽なデジタル映像。入場料返せどころか、精神的ダメージに対する慰謝料を払ってほしいものだ。
で、この映画が始まる前に流されたいろいろな広告の中に「卵子提供者募集。21歳から32歳までの健康な女性。謝礼8000ドル」という某大学病院の広告があった。すると、隣にすわっていた友人が、ポップコーンを食べながら嘆いた。「あの条件に私の年齢があてはまってるならば、今やっているくだらない仕事なんかすぐに辞めるのに! もう仕事はしないのに!」。それを聞いた別の友人は、「簡単なことじゃないらしいよ。ぼくの友達で卵子を提供した人がいるんだけど、けっこう大変だったらしいよ。自分で注射したりするらしいよ」「なによ、そんなこと。今の仕事に比べれば!」。ちなみに、彼女は編集者。雑誌にしょっちゅう載っている広告から判断する限り、8000ドルは卵子提供謝礼として今の相場らしい。