2006年 04月 03日
「マゼッパ」 ゲルギエフ指揮によるメトロポリタン・オペラ |
3月30日、ゲルギエフ指揮によるオペラ"Mazeppa"の最終公演をメトロポリタン・オペラを観に行った。ゲルギエフ人気のせいか、最終日だったせいか、チケットは立ち見席を含み売り切れ。このチャイコフスキー作品は、ゲルギエフの本拠地マリンスキー・シアターとの共同プロダクションで、メイン・キャストはもちろん、セットもコスチューム・デザインもロシア人。いつものように、観客は老若男女だったが、この夜は特にロシア人の姿が目立った。私の隣の席に座っていたのもロシア人女性で、「このオペラを見るのは初めて。ゲルギエフのファンだから来た」と言っていた。
Mazeppaは、ウクライナの歴史に名を残した伝説的な軍人についての、プーシキンの詩”Poltava"に基づく。政治とロマンスが絡んだ作品である。
一言で言えば、荘重で暗いオペラだ。拷問シーンがあったり、首がころがってきたりと、その血生臭さと悲劇性、歴史のうねりの圧倒感は、タルコフスキーの「アンドレ・ルブリョフ」とどこか共通するものがある。
タイトルとなっている、軍人マゼッパや、彼のライバルのキャラクタリゼーションが曖昧なので、ストーリーに感情移入しにくい。マゼッパは野心的で、無垢なヒロインの自分への恋心を政治目的のために使う悪党のようにも思えるし、彼のライバルは、偏見から自分の娘の恋心を理解しない偏狭な父親に思える。言い換えればヒーローがいないのである。一方、観客が同情するのは、若さと無知から自己破滅してしまうヒロインである。
ヒロインのマリア役のオレグ・グリャコヴァの声は、細いが安定感があり、若々しさ、初々しさ、叙情性が感じられた。ワーグナーのオペラには不向きだろうが、この役にぴったり。「ユージン・オネーギン」のタチアナもよく歌うそうだが、おそらくはまり役であろう。マリアの母親役のラリッサ・ディアコヴァもよく響く、ドラマティックな歌い方をするメゾソプラノでよかった。ふたりのデュエットと、マリアのアリアはすばらしかった。
セットとコスチュームは大仰な割に、田舎っぽいというか雑というか、洗練さに欠けていた。演出は、絶望したマリアが、ゆるい傾斜をごろごろと転がり落ちたり、死刑になったマリアの父親の首がマリアの胸元に飛んできたりと、荘重なテーマにそぐわない、ちぐはぐなアクションがあった。
ゲルギエフの指揮はダイナミックでメリハリがきいている。7月に、ニューヨークで、キーロフ・オペラを率いて、ニーベルンゲンの指輪4作を集中公演するので楽しみだ。ところで。彼は、世界各地を飛び回りながら、年間250を越す公演をこなしている。移動にかかる日数を考えると、これは精力的というよりも超人的である。
ちなみに、マゼッパのストーリーは以下のとおり。
舞台は17世紀。コサックの農場主コチャベイの娘マリアは、コチャベイの友人のマゼッパに夢中。マゼッパもマリアを愛し、コチャベイに彼女との結婚を許可してくれるように頼むが、コチャベイは激怒。マゼッパは70歳でマリアの祖父にあたる年齢といってもおかしくないからだ。自分を取るか、両親を取るかマゼッパに迫られたマリアはマゼッパと共に家を出る。動転したコチャベイは、ウクライナの独立をめざして、スウェーデンと組もうとしているマゼッパの計画をピョートル大帝に伝えるのだが、それを信じてもらえず、逆にマゼッパに捕まる。拷問のすえに、コチャベイは処刑されそうになり、マリアの母親は、マリアにマゼッパを説得してコチャベイの命を救うように頼む。しかし、結局、間に合わずコチャベイは殺されてしまう。結局、ピョートル大帝は、スウェーデン軍に勝利し、マゼッパは追われる身になる。マリアは、狂って荒野をさまよう……。
Mazeppaは、ウクライナの歴史に名を残した伝説的な軍人についての、プーシキンの詩”Poltava"に基づく。政治とロマンスが絡んだ作品である。
一言で言えば、荘重で暗いオペラだ。拷問シーンがあったり、首がころがってきたりと、その血生臭さと悲劇性、歴史のうねりの圧倒感は、タルコフスキーの「アンドレ・ルブリョフ」とどこか共通するものがある。
タイトルとなっている、軍人マゼッパや、彼のライバルのキャラクタリゼーションが曖昧なので、ストーリーに感情移入しにくい。マゼッパは野心的で、無垢なヒロインの自分への恋心を政治目的のために使う悪党のようにも思えるし、彼のライバルは、偏見から自分の娘の恋心を理解しない偏狭な父親に思える。言い換えればヒーローがいないのである。一方、観客が同情するのは、若さと無知から自己破滅してしまうヒロインである。
ヒロインのマリア役のオレグ・グリャコヴァの声は、細いが安定感があり、若々しさ、初々しさ、叙情性が感じられた。ワーグナーのオペラには不向きだろうが、この役にぴったり。「ユージン・オネーギン」のタチアナもよく歌うそうだが、おそらくはまり役であろう。マリアの母親役のラリッサ・ディアコヴァもよく響く、ドラマティックな歌い方をするメゾソプラノでよかった。ふたりのデュエットと、マリアのアリアはすばらしかった。
セットとコスチュームは大仰な割に、田舎っぽいというか雑というか、洗練さに欠けていた。演出は、絶望したマリアが、ゆるい傾斜をごろごろと転がり落ちたり、死刑になったマリアの父親の首がマリアの胸元に飛んできたりと、荘重なテーマにそぐわない、ちぐはぐなアクションがあった。
ゲルギエフの指揮はダイナミックでメリハリがきいている。7月に、ニューヨークで、キーロフ・オペラを率いて、ニーベルンゲンの指輪4作を集中公演するので楽しみだ。ところで。彼は、世界各地を飛び回りながら、年間250を越す公演をこなしている。移動にかかる日数を考えると、これは精力的というよりも超人的である。
ちなみに、マゼッパのストーリーは以下のとおり。
舞台は17世紀。コサックの農場主コチャベイの娘マリアは、コチャベイの友人のマゼッパに夢中。マゼッパもマリアを愛し、コチャベイに彼女との結婚を許可してくれるように頼むが、コチャベイは激怒。マゼッパは70歳でマリアの祖父にあたる年齢といってもおかしくないからだ。自分を取るか、両親を取るかマゼッパに迫られたマリアはマゼッパと共に家を出る。動転したコチャベイは、ウクライナの独立をめざして、スウェーデンと組もうとしているマゼッパの計画をピョートル大帝に伝えるのだが、それを信じてもらえず、逆にマゼッパに捕まる。拷問のすえに、コチャベイは処刑されそうになり、マリアの母親は、マリアにマゼッパを説得してコチャベイの命を救うように頼む。しかし、結局、間に合わずコチャベイは殺されてしまう。結局、ピョートル大帝は、スウェーデン軍に勝利し、マゼッパは追われる身になる。マリアは、狂って荒野をさまよう……。
by nyfilmetc
| 2006-04-03 01:44
| オペラ